センチメンタルフルムーン




ホテルの前でタクシーを降りる。
時計はもうてっぺんを軽くまわっていた。
にも関わらず、この街はまだあわただしく動き続けている。
ヘッドライトをつけた車が目の前をビュンビュン走っていき、
その辺からはカップルやら若い奴らの集団やらの声が聞こえてくる。

「眠らない街、東京・・・か。」

ふと、空を見上げてみる。
東京は星が見えないと言うけど、そんなこともない。
東京の夜空にも星がちゃんと輝き、まん丸の月がぽっかりと浮かんでいた。
そんな東京の空も嫌いじゃない。

そう言えばこんな風に空を見上げることなんてしばらくなかったなぁ。

今年に入ってから休みらしい休みなんてなくて。
それどころか自分の時間なんてものすらなかった。
すこしゆっくりできる時間があるときも、日ごろの疲れが出て結局寝てしまう。
尋常じゃない忙しさで、常に仕事に追われている感覚。
何もすることがないよりは全然マシやけど。
さすがに忙しすぎて記憶が曖昧なときもある。

空を見上げたまま立ち尽くす俺の頬を優しい風が撫でていった。

いつの間にか、風もこんなに冷たくなったんやな。
ついこの前までは暑い暑い言うてた気がするのに。
季節は着実に流れている。

季節の移り変わりすら感じられないほどめまぐるしく過ぎていく毎日。
俺は一体何に追いかけられてんのやろか。
誰に走らされてんのやろか。
時間?会社?仕事?・・・自分自身?
考えても分からない。

だけど、
仕事があるのはほんまありがたいことやから
弱音なんかあんまり吐きたくない。
今は他にやりたいこともないし
もらえた仕事はなんでもやりたい。
心配してくれる人もおるけど
多少ムリをしても、倒れなければ大丈夫や。
若いんやから。


月って実は自分で光ってるわけやないんやったっけ・・・。

頭上に輝く満月を見て急にそんなことを思い出した。
月は太陽の光を反射して光って見えてるんだって、昔学校の授業で聞いた。
自分で光ってるわけやなくて、しかも光の当たり方によって形がかわって見える。

・・・なんや、月って俺みたいやな。

俺は自分を特別な輝きを持った人間だとは思わない。
事務所やスタッフや周りの人間が光をあててくれるから輝いてられる。
光の当たり方によって、見え方だって変わってくるだろう。
周りの人間がおらんかったら、俺なんてちっぽけな人間やで。

ほんま月みたいやな。
・・・いや、そんなええもんとちゃうか。


俺はいつまで輝いてられるんやろな・・・。

ふと、心の中に暗い影が落ちたような気がした。
走り続けてるうちは不安なんて感じるヒマもない。
だけどたまにふと立ち止まった時、言いようのない不安が自分を支配する。
ずっと走り続けているのは、この不安から逃れるためなのかもしれない。


「亮!!」

後方から俺を呼ぶ声がした。

「おぉ・・・ヤスか。」
振り返るとそこには右手にコンビニの袋をぶら下げたヤスが立っていた。

「帰ってたんや?おかえりー。」
「おぉ、お前はコンビニ?」
「うん。なんやお腹すいてもうて。亮は何やってんの?」
「いや、今帰ってきたとこ。」
「そか。」

そう言うとヤスはポンと俺の肩を叩いて、優しく微笑んだ。

「いつまでも外におると風邪ひくで。はよ中入りや?明日も早いんやろ?」

ヤスには分かったのかもしれん。
俺が少しセンチメンタルになっていたのが。
あまり顔に出さない俺が落ちている時一番に気がつくのはいつもヤスやから。

「おぉ。」

俺がうなずくとヤスは満足そうな顔をして笑った。

「あ、そや。亮、これやるわ。」
そう言ってヤスはぶらさげたコンビニの袋からガサガサと何かを取り出した。
「ん。」
俺の手にあったかくてやわらかい感触がひろがった。

「肉まん・・・?」
「うん!コンビニ行ったらな、売ってて。今年始めて見たから思わず買ってもた!たまに無性に食べたくなるよな、肉まんって。2つ買ったから、一つやるわ。」
「おお、サンキュ。」
俺の返事を聞くと、ヤスはスタスタとホテルに向かって歩いていった。
俺もあとに続く。

「りょうー。仕事落ち着いたら一緒に天王寺動物園行こうやー。癒されるでー。」
「はぁ?なんでお前と動物園なんか行かなあかんねん。アホちゃうか。」
「りょぉー!!」
「絶対行かへん。」

そう言いながら心の中では、たまには動物園もええかなと思っていた。
ヤスとならなおさら。

いつのまに胸の中を支配していた不安は姿を消し。
変わりにあったかいものが胸いっぱいに広がっていた。
手の中の肉まんみたいに・・・。


そんな俺達を、空から月があったかく照らしていた。


fin・・・




*   *   *   *   *   *   *   *   * 

リハビリ第2段。笑
初!亮ちゃん小説です。

サイト作っちゃったので、一応新作も作っておかなきゃかなぁと思って書いてみたのですが。
またまた駄文で申し訳ない・・・。

あたしにとって亮ちゃんは全然つかめないキャラで。
でも、ブログの検索ワードでは「錦戸亮 小説」がかなり多くて。
だからいつか書きたいなぁと思っていたのですが。
これが限界かも・・・。
ラブとか絶対書けない・・・

あたし、何気に亮ちゃんとやっさんの絡みが好きで。
ヤン坊マー坊コンビ!!
亮ちゃんってメンバーの中で誰に一番心を許してるかって、しょーただと思うんですよね。
しょーたは自分で気づいてないと思うんだけど。

そんな関係性を書いてみたくて出来上がったお話です。
冬に向けて、亮ちゃんはますます忙しくなっていくと思いますが、身体にだけは気をつけてほしいものです。


2005.10.23

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