キラキラ



時計の針が12時を指す。
今日が昨日になり、明日が今日になる。
5月9日。
その瞬間、俺はひとつ年を重ねた。

「25か。ちょっとひくな。」

ひとりつぶやいた瞬間、ケータイが震えた。
「おぉ、なんや。ヤスあたりかな。」
12時ちょうどにメールを送るためにケータイを握り締めてスタンバイをしてるヤスの姿が脳裏に浮かびながら、ケータイを取った。
12時ぴったりにおめでとうメールしてくるなんてヤスくらいしかおらへんもん。
あいつそうゆうとこ律儀やしな。
そんなことを考えながらメールを開く。

「えっ・・・・」
そこにはヤスではなく、予期せぬ名前が表示されていた。
もう何年も連絡をとってない昔の仲間。
今までだって誕生日にメールなんかきたことないヤツやった。

“誕生日おめでとう。
 俺の誕生日は悟空の日やーって昔よう言ってたのをなんや突然思い出したわ。
 ヨコが25才かいな。四捨五入で30やん。ひくわー。
 てことは俺ももうすぐってことやけどな。
 ま、がんばりや。“

一気にそれを読みきって、ふっと頬が緩んだ。
えらい久しぶりやのに、「ひさしぶり」の一言もないんか。
まぁ、らしいっちゃらしいけどな。
・・・もうあれから10年になるんやな。

頭いっぱいにあのころのことが鮮明に蘇える。
何も考えてなくて
何も怖いものなんかなくて
くだらないことでいつもみんなで笑い合って
おとなになることの意味なんて何もわかってなくて
この時間が永遠に続くんじゃないかと錯覚してたあの頃・・・。

俺が事務所に入ったのは今からちょうど10年前
15才のころ。
おかんが勝手に履歴書を送って、なんやかんやいう間にオーディションに受かってた。
最初は右も左も分からん状態で
仕事なんて意識もまったくなく
自分が何してるのかさえもよう分かってへんかった。
せやけど、とりあえず踊るのは楽しかったし、テレビやら舞台やらに出られるのもうれしかったし、
なにより、事務所には同じくらいの年の仲間がいっぱいいて、そいつらとワイワイやってる感覚が一番楽しかった。

毎日アホなことばっかやって笑いまくって、些細なことでようケンカもした。
でも次の日にはみんなケロッとしてまたアホなことして。
みんなろくに高校行ってへんかったから、俺らにとってはその時の仲間は高校の同級生みたいなもんやった。
さしずめ仕事場が学校ゆうところか。
レッスンでは先生によう怒られたりもしたしな。
怒られた日の帰りはいつも行くラーメン屋で愚痴と文句の言い合いや。
たまにおっちゃんがチャーシューオマケしてくれたりすると、怒られたことなんかすぐに忘れてたけど。
ほんまに毎日楽しかった。

でも、そんなんは長くは続かへんかった。
高校生活にタイムリミットがあるように、俺らのその時間にもタイムリミットがあった。
将来の保証なんて何もない世界。
ただでさえ不安定なジュニアという立場。
それに加えて、関西は東京に比べてもらえる仕事の量や質も劣る。
最初は何も分からなくて楽しいだけでよかった仕事やけど、
普通の高校生が進路を考えるのと同じで
いくらアホな俺らでも17・18才になるといろいろ考え始めるのは当たり前やった。

いつのまにか、ひとり、またひとりと事務所を去っていき始めた。
辞める前に相談してくるヤツもおったし、
辞める当日になって打ち明けてくるヤツも、
辞めることすら言わないで突然来なくなったヤツもいた。

仲間がどんどん辞めていく中で、「俺はどうするんやろ」ってどこか他人事のように考えてた。
事務所を辞めてからのアテがないわけでもなかった。
あかんようになったら、中学卒業してから勤めた土木作業員に戻ればええと思ってた。
でも、せやから逆に辞めへんかったんかもしれんな。
切羽詰ってたわけやなかったから。

辞めていくヤツの背中を見ながら、同じ仕事してへんでも仲間は仲間やって
その時は簡単に思っとった。
関西に住んでるんやから、会おうと思えばいつでも会える。
またいつでもアホなことできるって。

でも、そんな簡単なものじゃなかった。
最初はちょくちょく取り合っていた連絡も、時間が経つにつれ途切れていった。
学校では毎日会って同じ時間を過ごしていた仲間でも、
卒業してもずっと友達だって約束した仲間でも
卒業して時間が経つと連絡が途絶えていくのと同じ。
約束がなくても会える場所がなくなるっていうのはそういうこと。
約束がないと会えない距離っていうのは、物理的な距離は近くてもそこには目に見えない果てしない距離が存在してるんや。

気がついたら、ほぼ同期で事務所に残ったのは俺とヒナとすばるだけになってた。

「ま、がんばりや。お前ならやってけると思うで。」

特に仲の良かったヤツが辞めていく時、めずらしく真剣な顔で言われた。
普段マジメな話なんてしたことなかったから、どんな顔してこたえればいいか分からんかった俺はへらっと笑って「おぉ。」とだけ言った。
あの時は大して気にも止めなかったけど、それから何年かしてこの仕事をやめようか悩んだ時にふと思い出したのがこの言葉やった。
あいつらの顔が浮かんで「やっぱり俺は辞めたらあかんな」って思った。
なんでかは分からんけど。

当時の仲間とはもうほとんど連絡をとっていない。
たまにふとあの頃のことを思い出すけど、いまさらどんな顔して連絡をとっていいかも分からんから
少しの間一人で想い出に浸って終わらせる。
25才になった今でもオトナになる意味なんて全然わからんけど。
おとなになるってもしかしたそうゆうことなんかもしれんな。


もう一度、俺はメールを読み返した。
何年もの長い空白はそこには存在してないかのようやった。
メールに透けて15才のころの俺たちが見えたような気がした。
「ま、がんばりや」と言って別れたあの時のあいつの顔が重なった。


もし、アイツらが辞めてなかったら・・・
もし、俺があの時一緒に辞めてたら・・・
俺らは今どんな道を歩いてたんやろな。
全然違う人生になってたんかな。
今がいやなわけやないけど、たまに考えてしまうことがある。
自分の進んできた道は正しかったのか、
もしかしたらもっと違う人生があったんじゃないかと。
もし、10年前に戻れたら今度はどんな道を選ぶのか・・・。


なつかしさに浸っていると、俺の手元のケータイがまた震えた。
「今度は誰や」
メールを開くと差出人は錦戸やった。

“キミくん、30才おめでとう。

 あ。
 間違えた。
 (四捨五入して)30才おめでとう。“

「あほちゃうか、アイツ」
ふっと笑ってつぶやくと、またケータイが震える。
「今度は誰やねん」

“HAPPY BIRTHDAY
 横山くん、誕生日おめでとう。
 25才やね。
 四捨五入したら30やね。
 今年もいっぱいごはん食べる横山くんでいてください。
 またメシいきましょう!“

「大倉はメシのことしか頭にないんかい。・・・っと、次は誰やねん。」

“ハッピィバースデー!
 キミくん25才おめでとうー☆
 またエイトの最年長さんやね(^▽^@)♪♪♪
 もうオトナなんやから、あんまり僕をいじめんといてな(>_<)
 キミくんにとってHAPPYな一年になりますよぉに♪♪♪“

「ヤスのヤツ、またこんなに絵文字使って読みにくいやん。」

続々届くメンバーからのメール。
それを読みながら、俺の頭はさっきまでの考えを打ち消していた。

正しいか間違いかなんてわからへんけど
10年前に戻っても俺はやっぱりまたこの道を選ぶんやろう。
このメンバーと一緒にやっていく道を、選ぶんやろな。
そして、違う道を選んでいったアイツらもまたきっと同じ道を選んでいくんだろう。
同じ場所で同じ景色を見ていたはずなのに
気がつけばいつの間にか違う未来を歩いている。
きっとそれがオトナになるってことなんだ。
いつまでもコドモのままでなんかおられへんのやから。


もしかしたらもう一生アイツらと会うことはないかもしれない。
「会おうと思えばいつでも会える」なんて幻想や。
それは「会おうとしなきゃ会えない」ってことやって、オトナになった俺たちは痛いほど分かってるから。
せやけど、もしいつか会えたとして、それが俺たちがいいおっさんになったころやとしても
かしこまった挨拶なんて必要ない。
「おぉ。」のひと言だけであのころに戻れるはずや。
おれたちが過ごしてきたのはそうゆう時間なんや。
特別でもなんでもない、
だけどきっと人生の中で一番輝いていた時間。

もう交わることはない道だけど
俺達は確かに同じ道を歩いていた。
コドモとオトナの境目を一生懸命歩いていた。

そして10年後の今日も、あの日からずっと続く別々の道を歩いている。
キラキラに輝く同じ想い出を胸に抱いて・・・。



End...






*   *   *   *   *   *   *   *   * 



気がついたら一年以上も放置していまして、かなり久しぶりの更新はヨコのバースデー記念小説です。
・・・あれ、ヨコの誕生日っていつだっけ??苦笑
実は去年の5月のヨコの誕生日あたりにこのお話を思いつき、誕生日のころにはほとんど出来上がりかけていたのですが、
最後まで書き上げきれずにいたらいつの間にか誕生日も過ぎ、夏が過ぎ秋が過ぎ・・・
アップするタイミングを逃しまくり、存在自体を忘れていた時にファイルの整理をしていて半年以上ぶりに見つけてしまったのです。
お蔵入りさせるにはもったいないほど自分的には思い入れのある作品だったので、
できてなかったところを書き足して、今回のアップと相成りました。
なので、気分だけは去年のヨコの25才の誕生日に戻って読んでもらえるとうれしいです。

あたしも今年25才になります。(3馬鹿と同世代なのです。)
10代の頃は25才なんてもう相当なオトナに見えたけど、
実際それを迎えようとしてる今、全然オトナなんかじゃありません。
オトナになりきれない自分と、コドモには戻りきれない自分が頭の中にいるような、そんな感じです。
ただ夢だけ見て進んでいけるほど無邪気にもなれなくて
だけどすべてを諦めてしまえるほど大人にもなれなくて
その中で学生の頃の想い出だけがキラキラと輝いて見えたりします。

そうゆう不安定さを描き出したくて書いてみた小説なのですが。
・・・大失敗ですねぇ。苦笑
うまくかけなくて歯痒いです、ほんと。
もっと文章力がほしいー。

ただ、このお話は今までの小説の中では一番自己満足で書いたお話です。
だから読んでくださる方々には大して面白くないかもしれないです。苦笑
あたしのこの今の不安定な気持ちを残して起きたかっただけだから。
そして、同い年のヨコも同じような気持ちを感じているかもしれないと思い、出来上がったお話なので。

突然のバースデーメールの差出人は、あたしの中にはちゃんとしたモデルがいるのですが、
あえて名前は伏せました。
ご想像にお任せします。


2007.01.12

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