Pray



あたしの右腕には大切な想いが刻まれている
誰にも譲れない
あの人の誓い
あたしの祈り・・・

輝いた日々をつかむため・・・


―pray―


「すばる!右手!それどうしたの!!?」
久しぶりに逢ったすばるの右手には真っ白な包帯が痛々しく巻かれていた。
「怪我でもした!?」
あたしはあわててすばるの右手に手を重ねようとすると、彼はニッと笑って。
あたしの手を優しく払い、真っ白の包帯をくるくると外して見せた。

「それ・・・」
すばるの右手の甲には人工的な模様が刻まれていた。
「タトゥー!?」

「その通り!!」
すばるは目を丸くしてるあたしを見て満足そうに笑った。


「突然ちゃうよ。前から考えとった。」
突然どうしたの?と問うあたしに彼は平然と言った。
「だってかっこええやん。それにほら、俺、人と同じことするの嫌いやん?タトゥー彫ってるヤツなんか周りにおらへんしな。」
「もちろん本物だよね・・・?」
「当たり前。どうせやるなら本物彫らな!シール貼ってどないすんねん。」
彼はそう言うと、頼んでもいないのにタトゥーを彫った時の状況をあぁやこうやと事細かに説明してくれた。
「でもな、ほんま痛かったわー。彫ったあともずっとヒリヒリしてるし。やっと最近落ち着いてきたとこやな。」
へタレのビビリのくせにそんな度胸だけはあるんだから・・・。
「だからって何もそんな目立つトコに入れなくても・・・」
「アホかー!せっかく入れたっちゅーのに隠してどないすんねん!こーゆうもんは見せてなんぼやがな!」
「仕事は大丈夫なの?」
「まぁなんとかなるんちゃう?スタッフには軽く言っといたし。」
すばるは大して気にも止めない様子で言った。

すばるはたまに思いつきだけで行動することがある。
髪形に至っては、突然思い立ってはそれどうなの?って感じの髪型にしてみたり、えっ!?っていうような染め方してみたり。
評判がよくなくても、自分が満足ならそれでいいみたい。
だから今回もそんな思いつきでやったんだろう。
ただ、髪は伸びてしまえば済むことだけど、タトゥーはそういうわけにはいかない。
簡単には消せないし、飽きたからって取り替える事だってできない。
そこの所ちゃんと分かってるのかなぁ・・・なんて思ったけど、今さら言っても仕方ないし、こういうときのすばるは何を言っても聞かないから、言うのはやめておいた。
それに目の前でうれしそうにタトゥーをさすってるすばるを見てたら、ま、いっかって気分になった。

このときのあたしは、このタトゥーにすばるの深い想いが込められてるなんて思いもしなかった。

その日の夜中、ふと目がさめた。
隣ではすばるが寝息を立てて気持ちよさそうに眠ってる。
あたしはそんなすばるの寝顔をしばらく眺めていた。
ふと、タトゥーのことを思い出し、彼の右手を取った。
刻まれてるのは仰々しい骸骨。
あたしはその手の甲にそぉーっと触れた。
触りなれたすばるの手。
ちょっと抵抗のあったタトゥーも、すばるの一部だと思うと、途端に愛しく思えてくる。

あたしはすばるの右手にそっとキスをした。

「・・・ん・・。」
気持ちよさそうに眠っていたすばるが突然身体を動かした。
「あ、ごめん。起こしちゃった?」
「・・・ぃや。・・う、ん。だいじょぶ。お前は・・・?」
「うん、なんか目ぇ覚めちゃって」
「・・ふぅん。」
すばるはまだ寝惚けているようだった。

「ねぇ、すばる。昼間見たときはこのタトゥー、びっくりしちゃったけど、今は少しだけね、いいなって思うよ。」
「・・・」
「だってもう、すばるの一部だもんね。」
あたしは静かに笑って見せた。
「右手はちょっと目立つけどね。」

「・・・俺な」
すばるは静かに口を開いた。
「さっきはただかっこいいからタトゥー入れたってゆったけど、ほんまはもっと大きい理由があんねん。」
「・・・理由?」
「うん。これは俺の誓いやねん。」
「・・・誓い・・・?」
「お前も見てたから分かってると思うけど、俺、ちょっと前までほんま腐っとったやん。
 なんもかんもやる気なくて、仕事もうまいこといかんくて。どんどん仕事も減ってくし。
 もうこの仕事辞めようって何回も思ったし、もう歌なんか歌えへんくてもいいと思ったときもあった。」 

知ってる。
あたしはすばるのそばでずっとすばるを見てきたから。
一時期のすばるは本当に見てられなかった。
毎日毎日暗闇の中で孤独に怯えているかのように。
心から笑うこともなくなって。
あたしにさえ心を閉ざしてしまって。
ひとりぼっちで苦しんでた。
なのにあたしはそんなすばるに何にもしてあげられなかった。
何をしてあげればいいか分からなかった。

でも、いつのころからかすばるは変わった。
何かが吹っ切れたように、自然に笑うようになった。
いい顔するようになった。
それがようやく最近のこと。
この夏くらいのこと。

すばるは天井を見つめながら話を続けた。
「だけど、ある日思ってんな。やっぱり俺にはこの仕事しかあらへんって。俺の出来ることはこれしかないって。やっぱりずっと歌っていきたいって。」
「・・・ぅん。」
「今はな、まだ仕事も少ないし、一時期に比べたら渋谷すばるはもう墜ちてもうたと思われるかもしらん。
 だけど、俺決めたんよ。もう一度ゼロから始めるって。
 もう腐ったりせぇへんよ。絶対。何があっても諦めへん。自分の力で未来を切り開く。絶対にこの手で夢をつかむ。」
「・・・」
「このタトゥーはその誓いなんや。この気持ちを忘れないための・・・。」

「・・・すばる」
「だから手やないとあかんかってん。」

「・・・・。」
あたしの視界がいきなりぼやけた。
「・・っ、おい!何泣いてんねん!?」
すばるに言われて気づいた。
あたしの瞳からは涙がこぼれていた。

「なんでもないよ・・・。」
あたしは涙を拭って笑顔を向けた。

このときあたしはある決意を固めた。
あたしもすばると同じタトゥーを彫る。
すばるの夢を叶えるために。
すばるの想いを共有するために。
すばるが夢をつかめますようにって祈りを込めて。
あたしには他になにもしてあげられないから。
でも、想いだけは、気持ちだけはすばると同じでいたいから。
同じタトゥーを入れて、すばるの想いをあたしの身体にも刻もう。


すばるにはタトゥーを入れることは内緒にした。
ある時「あたしもタトゥー入れようかなぁ〜」なんて軽く言ってみたら、「絶対やめとけ」って言われたから。
自分は入れたくせに、あたしには反対するなんて矛盾してると思うけど、「お前は女なんやから」だって。
世間的にはタトゥーの印象はまだまだ悪いし、ましてやすばると違って一般人のあたしには日常生活にだって支障があるだろうから。
友達とか親にだって引かれるだろうし、これから先、学校や仕事にだって影響するかもしれない。
だけどそんなことより、あたしにはすばるの誓いを自分の身体に刻みたいって想いの方が強かった。

それとなく、すばるの行ったタトゥースタジオを聞きだし、すばるのタトゥーデザインも手に入れた。
さすがに手の甲なんて目立つとこには入れられないから、彫る場所は右腕に、大きさもすばるのものより小さめにした。
彫ってるときは痛かったけど、すばるの誓いを共有できると思ったら耐えられた。
すばるのことを今まで以上に近くに感じられるようになった。


「すばる!見て見て!!」
タトゥーを彫ってから一週間程の後。
あたしはやっとすばるにタトゥーのことを打ち明けることにした。
服の袖を捲くり上げ、右腕をすばるの目の前に突き出した。

「おまえっ・・!?」

「すばると同じの。入れちゃった。」

すばるは元々大きい瞳をますます大きく広げてあたしの腕を見つめた。
「・・・なにやっとん!?やめとけ言うたやん!しかも女やのに骸骨なんて・・・」
すぐにはコトバが出なかったようで、ちょっとの沈黙の後、すばるは声を荒げてまくし立てた。

想像通りのリアクション。

「だって・・・すばるとおそろいのものが欲しかったんだもん。」
「あほ!そんなん言うてくれたら指輪でも何でも買ったるわ!タトゥーなんて入れたら間単には消せへんねんで!?」
「自分だって入れてるじゃん。」
「俺はいいの!でもお前はあかんよ。もう・・・なにやってんねん、ほんまに・・・」
そう言ってすばるはうなだれた。

「すばる・・・。」
あたしは真剣な顔で口を開いた。
「おそろいのものが欲しかったって言ったけど、それだけじゃないよ。もっともっと大切な理由がある。」
「え・・・?」
「すばるの想いを一緒に感じたかった。すばるの気持ちを分かってあげたかった。すばるのあの誓いをあたしも共有したかったの。
 すばるの夢をあたしも一緒につかみたいとおもったの。」
「・・・」
「だから、これはそのあたしの気持ち。すばるは一人ぼっちじゃないよ。すばると同じ想いをあたしも身体に刻んだから。
 すばるが夢をつかめますように・・・っていつも祈ってるよ。
 離れていても、逢えない時も、いつもいつも。すばると同じ気持ちでいるよ。」
あたしは照れた笑顔を浮かべた。

「そのためのおそろい。」

「・・・ありがと。」
黙ってあたしの話を聞いてたすばるは静かにそう言った。
「俺の夢は・・・もう俺だけのもんやなくなったんやな・・・」



それから、2年の月日が流れたある日。
すばるは突然真剣な顔で切り出した。

「ごめん・・・。言わなあかんことがある。」
「ん?どしたの?」
「タトゥー・・・取らなあかんことになってもうた。」
「えっ!?」
「事務所の上の方の人から言われてしもて・・・。ほんまごめん・・・。」

すばるの話では、前々からスタッフには散々取ってほしいって言われてたんだって。
だけど、すばるはイヤだって言い続けてた。
仕事の時は服とか手袋とかで隠したりして、なんとか今までやってきたんだけど・・・。

「今まではそんなに支障なかったかも知らんけど、これから仕事増えてってもっとテレビとか出るようになってくと、やっぱりタトゥーは印象が悪いとかなんとか言われて・・・。」
「そぅ・・・。」
「それに・・・もしかしたらCD出せるかもしれへんねん・・・」
「えっ!?それってデビューってこと!?」
「いや、ほんまにまだどうなるか分からん状況やねんけど。そうゆう話もちょこっと出てるみたいで・・・。
 これからテレビにでる機会も増えていきそうやし、他の仕事の話もあったりするから・・・。
 ドラマとか舞台とかやるにしてもいろいろ支障が出るかもしらんって・・・。」
すばるは申し訳なさそうな顔をして言った。

「なんでそんな顔するの?」
「へっ・・・?」
「すばるの夢が、その手に誓った想いが叶うかもしれないんでしょ!?だったらそんな悲しい顔する必要なんてないじゃない!
 夢をつかむために刻んだタトゥーなんだから、それが夢をつかむことの邪魔になっちゃ駄目だよ。そんなの本末転倒だよ?むしろ夢が叶うんだーって喜ばなきゃ!」
「・・・。」
「そのタトゥーがなくなるのはやっぱりちょっとさみしいけど。でもね、すばるの夢が叶うんだったらうれしさのほうが何倍も大きいよ!そうでしょ?」
「・・・うん・・・そうやな。」
「もうすばるの一部になってるタトゥーだから、消えちゃうのはそりゃ悲しいけど・・・。
 でもタトゥーがなくなってもすばるはすばるだよ。今のすばるなら、タトゥーがなくたって大丈夫!あたしが保証する!!」

そして、あたしは満面の笑顔を浮かべて言った。
「それにすばるのタトゥーが消えてしまっても、あの誓いは消えないよ。すばるが右手に刻んだ想いは、あたしの右腕が受け継ぐから。」
「・・・おまえ!?」
「うん。」

すばるがタトゥーを消してしまうって言ったときから決めてた。
ううん、タトゥーを入れたときから決めてた。
どんなことがあってもこのタトゥーは消さない。
すばるが消してしまってもあたしは消さない。
すばるの誓いをあたしの身体にはずっと刻んでおくって。
この誓いの証は一生消さないって。

すばるの誓い。
あたしの祈り。
それがひとつになって、これからはあたしの右腕にずっと生きつづける。

「ありがとう・・・」
そう言ってすばるはあたしをギュッと抱きしめた。

そして。
あたしの右腕にそっとキスをした。

あたしも大好きなすばるの右手に
そっとキスをした。


あれからすぐ、すばるはタトゥーを消す手術をして。
2ヶ月が経つころには、すばるの右手からきれいにタトゥーが消えた。

だけど、タトゥーを消してもすばるは何も変わらなかった。
むしろ、勢いを増した。
関ジャニ∞として念願だったCDデビューを果たした。
すばるの歌う姿が全国ネットで流れた。
本当に本当に気持ちよさそうに歌うすばる。
昔とは別人のようにいい顔をして笑うようになったすばる。
もう一度すばるのこんな姿がテレビで見られるなんて夢みたいだと思った。
だけど夢じゃない。
これはどん底から這い上がったすばるが自分の手でつかみとったもの。
すばるが今までがんばってきた証。

忙しくなってしまって、前以上に逢える時間は減ってしまったけれど。
悲しくなんかない。
右腕のタトゥーを見ると、いつもすばるが近くにいるように感じられるから。

すばるのタトゥーは消えてしまったけど。
すばるの誓いが消えてしまったわけじゃない。
すばるが心から笑ってる限り、すばるの心にはあの誓いが刻まれている。
これからもきっと輝いた日々をつかむためにすばるは走りつづけていく。

そして今日もあたしの右腕にはあのタトゥーが刻まれていて。
すばるを見守ってる。
すばるの夢が叶うように
すばるがいつまでも輝きつづけていられるように祈ってる。


あたしの右腕には大切な想いが刻まれている。
すばるの誓いと
あたしの祈り

輝いた日々をその右手につかむため・・・


end





*   *   *   *   *   *   *   *   * 

すばるくんの右手のタトゥーにまつわるお話でした。
タイトルはすばるファンにとっては涙の名曲と言われる、すばるくん作詞の「Pray」から勝手に頂いちゃいました。
でも、実はあたしこの曲聴いたことないんです。
歌詞をちょこっと読んだことあるだけで。
すばるファン失格ですよね。
そんなあたしがそのタイトルを使うなんてどうかなぁって思ったんですが、やっぱり他のタイトルは思い浮かびませんでした。
すばるくんのタトゥーといえばPrayだろ!みたいな。
なのでPrayのイメージを壊してしまっていたら、大変もうしわけないです。
今度、この曲を歌ってるビデオを見られることになったので、非常に楽しみです。

2004.12.6

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